野球の暗い未来を回避するためには?
野球消滅
テレビや球場で野球を見る人は増えているけれど、野球をやる人は逆に減っているという不思議な現象が起きている日本野球。その原因は少子高齢化というほど単純なものではありません。
結局やる人は減っていっても、見る人が増えているのであれば、野球は存続するのでは?と思うかもしれませんが、
「理想としては『する』スポーツの延長線上に『見る』があることです。『見る』があるから『する』。(中略)『する』が減少すると『見る』も減るというロジックが回り出すと、プロ野球はほぼ絶滅します。いわゆる産業としては成り立たなくなる」
中島大輔. 野球消滅(新潮新書) (Japanese Edition) (Kindle の位置No.323-324). Kindle 版.
と警鐘を鳴らしています。
日本で野球といえば、最も身近なスポーツであり小学生の頃から野球遊びをして、家ではお父さんと一緒にナイターを見るという生活に密着したスポーツでした。だからこそ、日本でスポーツと言えば「野球」と言えるほどの人気ナンバーワンのスポーツだったのかもしれません。
野球人気絶頂の昭和の時代からから令和の時代に時は流れました。
生活様式の多様化や野球というスポーツの旧体制な特質により、徐々に令和の日本の価値観とズレが生じ始めて来ています。
このズレが進むと、いずれ日本野球は世界的な存在感が希薄になり、国内の野球もいずれ消えてなくなってしまうのではないか、と警鐘を鳴らしています。
野球消滅を防ぐためには野球に触れてもらう児童野球、小学生の児童野球がとても重要だと語ります。
児童野球のあり方は健全か?
プロ野球選手になるのは小学生の頃から野球に親しんできた子どもたちです。ですので野球をする子どもが減れば必然的に中学・高校と野球を続けて、プロ野球選手になる若者は減り、野球の消滅を招きます。
そういった意味で、児童野球は日本の野球を存続させるために非常に重要な役割を担っています。本書では児童野球や部活で野球をやっていた人なら一度は経験したであろう、典型的な事例が書かれています。
もともとサッカーの指導者になりたくて教員になった郡司監督は、小学3年生の息子が所属する学童野球チームの練習試合を初めて見に行った際、指導法に疑問を抱いた。監督はミーティングで「どんどん振っていこう」と話していたにもかかわらず、息子が高めのボール球に手を出すと、ベンチから「なんでそんなボール球を振るんだよ」と罵声を浴びせられたからだ。
中島大輔. 野球消滅(新潮新書) (Japanese Edition) (Kindle の位置No.534-537). Kindle 版.
こういった環境では野球を楽しむというより、ミスをしない。監督やメンバーからヤジられないプレイをせざるを得ません。
こういうチームの指導者や先輩たちはこういった環境下で育って来たはずので「これで野球をやめるような奴は根性が足りない」と思うかもしれません。でも、こういう環境で野球を楽しむことができるでしょうか?野球を続けることができるでしょうか?
ヤジや罵声が飛ぶスポーツは野球に限りませんが、プロでもない選手の試合や練習でこのようなことが起き、指導者からも看過されるスポーツは異常です。
昔ながらの理論(根性論とも言う)で体力に見合わない練習量で故障したり、学業に支障が出るのは親は嫌います。
子どもたちに野球をやらせるかどうかの判断を下すのは経済力のある親です。親世代がこういった思いをしているのであれば、せめて自分の子どもにはそういった思いはさせたくないと考え、野球以外のスポーツをすすめるかもしれません。
本来ならば子どもに野球を通して人間的に成長してほしいと親は願うはずなのに、子どもにトラウマを与えかねません。
子どもにとって児童野球が楽しくない。親としても不健全な環境に子どもを置きたくない。となれば児童野球の人口が減り、野球が先細るのも頷けます。
関連する本
現ヤクルト一軍監督の高津臣吾監督が二軍監督時代に執筆した、選手育成の哲学や一軍と二軍での試合の違いについて語った本。やはりこの本でも「優秀な選手ではなく、潰れない選手がプロになる」とも触れられていました。
潰れないというのは体力的にも精神的にもです。
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日本の人口の減少を考えたら野球以前に日本そのものが消滅してしまうかもしれません。事実、一つの学校の野球部ではチームメイトが集まらず、複数の学校での合同チームなんてのも現実味を帯びてきています。
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この本を読んでみて
日本で生まれ育ったので、なかなか気づきませんでしたが、野球というのは世界的に見て超マイナースポーツなのです。
フランス代表のサッカー選手って誰か知ってます?ドイツ代表は?ブラジルは?アルゼンチンは?サッカーをしない人でもジダンやクローゼ、ロナウジーニョにメッシくらいは聞いたことあるのではないでしょうか?
では、さっきと同じ国の野球選手って知ってますか?わたしは知りません。
学生時代に留学生(サウジアラビア・ブラジル・ドイツ・フィンランド)と野球のナイター中継を見ていたのですが「初めて見るスポーツなのだが、どういうルールなの?」と聞かれたことがあります。ルールが複雑で高価な道具も必要なスポーツなので、どうしても世界的には普及しないのかもしれません。
戦前戦後とボールを使ったスポーツと言えば野球しかなかった時代と変わって、令和に生まれる子どもたちは様々なスポーツに触れることでしょう。
昭和むき出しな根性論やスポ根気質な旧態依然であれば、野球は他のスポーツによって「淘汰」されるスポーツとなること間違いなしでしょう。
商品サムネイルはamazon商品ページから引用しました。