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書評「二軍監督の仕事」感想|一軍に求められない二軍監督の特殊な仕事とは?

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プロ野球の厳しさと監督の優しさが溢れています。

二軍監督の仕事 育てるためなら負けてもいい

元プロ野球投手の高津臣吾氏による著書。一軍監督とは異なった目的をもつ二軍監督のお仕事について語られます。

この本を読むまではプロ野球の二軍といえばどこか格落ちした選手たちが一軍登録に向けて切磋琢磨する場所という想像をしていたのですが、それはある意味正解、部分的には不正解でした。二軍は英語では”Farm”と呼ばれます。"Farm"とは農場や飼育するなどの意味を持ちます。そう、二軍は選手同士で切磋琢磨する以外にも一軍で末永く活躍するための成長の場でもあったのです。

一軍では常に勝つことが何よりも優先さます。ですが二軍では勝つことも重要ですが、ときには選手を育成することの方が重要なのです。その精神を一言で表すと「育てるためなら負けてもいい」ということなんです。

チームを勝たせることが唯一かつ最大の目的である一軍の監督と違った視点をもつ二軍監督の仕事が野球への愛と共に綴られた本でした。

 

二軍監督の仕事内容

勝つこと以外にも選手の育成が重要な二軍の世界では少々異なる戦略が取られることが少なくないようです。例えばある野手の打順は絶対に4番から変えない、またある投手はどんなに調子が悪くても6回まではマウンドに立たせ続けるなどです。

どうしてそういうことをするのかというと、その野手には一軍に上がったら4番が担うべき役割を、その投手には先発として任された試合運びを二軍でしっかり学び取ってほしいという気持ちがあるからなのです。たとえ、その結果チームが負けてしまっても一軍に上がったときに役立ててほしい、そして長く一軍にとどまっていてほしいという監督の願いがあるのです。

そういった選手を育てるという観点が非常に強いのが二軍監督の特徴です。

また選手自身が気づいていない才能を見つけ出し、伸ばしてあげるのも重要な仕事です。気づいていない才能をどうやって見つけるのかというと「思いっきりバットを振れ」とか「とにかく全力で投げろ」とか言ったまるで小学生野球で使われるような指示を出すのだそうです。

選手にのびのびと野球をさせるで、キラリと光る才能や癖を見つけ出し、一軍で末永く活躍できる選手に育て上げて行きます。

 

メジャーリーグとの違い

高津氏は現役時代に日本・アメリカ・韓国・台湾と世界を股にかけて活躍をしてきました。お国が変われば野球も変わるようで、氏に大いなる刺激を与えたようです。

例えば試合前の練習一つとっても何時間も前からチームみんなでアップを行う日本式の野球と違って、メジャーリーグでは各ポジションの選手はバラバラにアップを行い、試合に備えます。これは集中力は長くは続かないし、個人差も多いので試合の何時間前から一斉にアップをするのは非合理的だという考え方からだそうです。

中でも印象的だったのが「助っ人外国人選手という概念はアメリカには存在しない」とうことです。日本のプロ野球で外国人選手がいると助っ人外国人選手と言われることもありますが、メジャーリーグではどんなに優秀な外国人選手も助っ人外国人ではなく、外国人戦力なのです。

この考えに通じる事が昔読んだ「独創はひらめかないー『素人発想、玄人実行』の法則」に書いてありました。それが「アメリカは優秀な人材の輸入ができる」という考えです。

野球などのスポーツに限らず、ビジネスの世界でも自発的にアメリカの企業を目指す人はいます。そういった優秀な人材を”輸入”できるアメリカだから強大国となっているのではないかと思ってしまいます。

 

引退後に球界に残れるか

いくら二軍とはいえお金をもらって野球をやっているので結果を残せないとクビになってしまいます。引退セレモニーを開いてもらえる選手はほんの一部。引退後、コーチや監督として球界に残れる選手はさらにその一部です。

以前読んだマンガ、グラゼニにはこんなシーンがありました。「(プロ球団との)契約金には手を付けるなよ。それが退職金の代わりなんだから。」プロ野球選手として最初に受け取るお金を退職金として使われることを想定しなければいけないほど、厳しいプロ野球の世界。どんなに優秀な選手でも大怪我をしてしまえば「はい、さようなら」。いつクビになるかわからない世界です。

そんな厳しい現役生活を終えても、まだ球界という大好きな野球の世界にいることは幸せなことだと高津氏は語ります。好きな野球の現場に立ち続けられるのは確かに幸せなことだと思いますが、私の感覚からすると引退したら勝負とは無縁の世界に落ち着きたいですね…

 

この本を読んでみて

いくら二軍があるからと言って二軍にとどまっているわけにはいきません。二軍の帝王や二軍の妖精と揶揄される選手にはなってほしくないと高津監督は語ります。

育成のために二軍にいたとしても、二軍でも結果が残せないと当然クビになってしまいます。そうなってしまった選手についても本の中でも触れられています。「第二の人生を頑張ってほしい」と。でも、それまで野球一辺倒だった二十歳そこそこの若者から野球を取り上げて、何を頑張れるのでしょうか?そんな残酷な一面もあるのがプロの世界です。

一方で、二軍で育成した選手が一軍で活躍してくれると本当に嬉しいと高津監督は語ります。本の中にもたくさんそのエピソードが多くあり、1人ひとりの選手のことをよく見ていたのだなぁと優しい人柄を思わせます。

厳しいプロスポーツの世界の優しい一面を見たような感覚になる読書でした。