言葉にしないと伝わらない。文字にしないと残らない。

硬派な世界観にひとつまみのコメディ「造物主の掟」感想

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天才マジシャンが異星人と交渉します。

造物主(ライフメーカー)の掟

わたしの読書の中心になる本である「星を継ぐもの」の作者、ジェイムズ・P・ホーガン氏による長編読み切りSF。

 

地球上で人類の進化が始まった頃。地球外生命体が土星の衛星、タイタンに降り立ち、ロボットだけが働く無人工場を開発しました。

ロボットたちはタイタンの資源を使って工場を運営しますが、ロボットたちに深刻なエラーが発生して工場の運営に支障をきたします。

 

増殖するロボット。限られた資源。そのような環境下では生き残りをかけたロボット同士の競争が発生し、淘汰が行われていきます。タイタンでロボットは独自の”進化”していくのです。


時は流れて21世紀。技術水準が現実世界よりもやや進んだ科学力を持つ地球で、土星の探索に訪れた調査隊がこう報告するのです。「どうやら知的な生命体がいるらしい…」

タイタンの調査隊にNASA的な機関の精鋭メンバーが集められるのですが、その調査隊の一人に神秘的なマジックを生業としているマジシャン、ザンベンドルフなる人物がいたのです。

 

なぜ門外漢の詐欺師が調査隊に含まれたのか?その理由とタイタンで独自に進化したロボットたちと人間の物語が描かれます。

ロボットの進化と生物の進化

タイタンで進化したロボットたちは人間と同じような知性を持っている設定です。

最初は機械として、工場の一部として振る舞うに過ぎなかったロボットたちが、ある致命的なエラーによって、先述したように独自の進化をとげるようになります。

 

これは動物の進化とよく似ています。最初は単純な生物からどんどん複雑な進化をたどり、泳ぐ生き物・這う生き物・飛ぶ生き物を生み出しました。

次第に意思を持つロボットへと進化し、タイタンでのロボットたちの知性・社会水準は中世のヨーロッパと比肩するほどになります。

 

タイタンのロボットたちはそれぞれに言語を話し、宗教を持ちます。

地動説を唱える科学者を異端扱いしたり、国同士の宗教戦争が勃発しそうな危険な雰囲気に地球の宇宙船が降り立つのですから、神か悪魔かとロボットたちは大騒ぎになります。

タイタンの世界

現実世界と同じく、土星の衛星タイタンは月よりやや大きいくらいの暗く・低温の星です。表面温度は-180度ほど。

地球上の生物では何も生きていけませんが、そこはロボットたちの世界。暗くても寒くても平気です。

 

機械の鳥や犬が、これまた機械の植物の森を駆け抜けます。

物語の中盤、人間とタイタンのロボットとのファーストコンタクトがあるのですが、タイタンのロボットたちはカメラのことを植物と呼んだり、ロケットのことをドラゴンと呼んだりします。

彼らにとって機械は植物であり、生き物であるという世界観なんですね。

 

ちなみにタイタンには探査機が一度だけ着陸しています。カッシーニのプローブでホイヘンスといいます。現実のタイタンは荒涼な地面が広がっています。

天才超能力(詐欺師)マジシャン

さて、そんなタイタンのロボットの世界の調査隊に一人参加した門外漢、ザンベンドルフ。マジシャンである彼に与えられた役割は…?

 

というのがこの本の面白いところです。彼の職業は心霊マジシャン。

ステージに上り、無作為に選んだ観客の誕生日や住んでいる場所、乗っている車を超能力や心霊の力を借りて当ててみせるという設定のマジシャンです。

 

ステージに上る前に必死で観客の素性を探ってもらうあたり、ただの人間です。

そんなただのマジシャンがロボットたちの調査に駆り出されているのだから彼の心境はグチャグチャです。


「NASAは俺に超能力があると本気で信じているのか?!正直に全部マジックだって言ってしまおうか…」と葛藤します。

でもそんな彼が物語のキーマンとして活躍してしまう(させられてしまう)あたりにニヤリとしてしまいます。

この本を読んでみて

昔に星新一ショートショートの解説を読んだとき、こんなことが書かれているのを覚えています。

傑作と呼ばれるSF小説は異質なものを組み合わせることでできる。コンピュータとロケットを組み合わせるのではなく、狐憑きとロケットを組み合わせるのだ。 

なんの本だったか忘れてしまいましたが、こんな文言だったと思います。

このライフメーカーの掟もい異星人文明と自称超能力マジシャンという異質のものを組み合わせています。

 

果たしてその食い合わせはいかに…私個人としてはやや食あたりすのする組み合わせだったかな。と思います。

別にマジシャンじゃなくても良かったなとも思いますし、タイタンのロボットたちも盲目的すぎるような気がします。ご都合主義的な展開もあり、途中で結末も読めてしまいました。

 

時折思い出したように挟まれるマジシャンのコメディも酢豚の中のパイナップルのように好き嫌いが分かれるでしょう。

星を継ぐ者シリーズの中で当時のソ連と米国が張り合うシーンが有るのですが、本作でもその小競り合いの描写が見られます。

やはり、異星人とのファーストコンタクトという人類史に残る出来事に国家の張り合いが混ざると、途端につまらなくなるように感じます。

 

星を継ぐもののような壮大な人類の由来を求めるドラマを期待するのは難しいですが、大味のハリウッド映画だと思えばそこそこ楽しめます。

ただ、気楽に読むには難しいのがSF作品。どっしりと腰を据えてどうぞ。続編もあります。