言葉にしないと伝わらない。文字にしないと残らない。

19世紀の古典SF。だけど新しい。「地底旅行」感想

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これが19世紀に書かれていたという衝撃。

地底旅行

海底二万里や月世界旅行などで知られるフランスの作家ジュール・ヴェルヌによる古典SF作品。書かれたのは1864年です。バック・トゥー・ザ・フューチャーのセリフにも彼の名前は出てきます。

今から150年以上前に書かれた物語ですが、決して古くささは感じられません。むしろその発想の斬新さや先見の明に驚かされます。ときにSF作家が技術的な顧問やアドバイザーになることもあったというのも頷けます。

物語としてはブレーキの壊れた蒸気機関車のような行動力を持つリーデンブロック大学教授、教授の甥の助手のアクセル、お供のアイルランド人のハンスが地球の底へ向かって探検するお話です。

古典的の名作として知られ、マンガ化や映画化されてきました。どちらも見てみたのですが、マンガは実に原作に忠実で、映画はかなり脚色が加えられていました。

なお、ディズニーシーのアトラクションにもなっています。物語の終盤のシーンを再現していたのだなとこの本を読んで知りました。

今でも通じる斬新な描写

19世紀当時の科学や考古学は、当然今のように成熟していません。分かっていないことや知らないことが今よりも遥かに多かった時代です。だからこそフィクションとしての自由な発想があったのかもしれません。

例えば地球の内部に大海が広がり、木のようなきのこが生い茂る森などが描かれています。

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Image:Wikipedia「地底旅行」より

他にも恐竜が生き残っていたり、古代の生物が闊歩していたりとロストワールド的な描写もあります。

恐竜の復活などは今でこそ当たりまえなテーマとなってしまいましたが、150年前では相当に新鮮な題材だったのではないでしょうか。

ちょっと面白いことに、当時最新の考古学と現在の考古学では会見が異なっているところがあります。例えば海竜の背中に甲羅があったり。こういった現在との違いを見つけつつ読むのも楽しかっったですね。

未来を見てきたかのような発想も

この本を読んでいて、強く印象に残ったのが、この部分。

シルル紀の地層、それからデボン紀の地層と、地下道を進むにつれて、私たちは動物の変化の歴史をたどっていた。その変化はやがて人類を生みだし、人類が動物界の頂点に達するのだ。

ヴェルヌ. 地底旅行 (光文社古典新訳文庫) (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2610-2611). Kindle 版.

これは地底旅行が書かれる5年前に発行されたダーウィンの進化論に影響を受けていると思われます。ダーウィンの進化論は当時全く受け入れられないような世論でしたが、ヴェルヌはその考えをこの本に取り入れています。

また、当時としてはまだ体系的に整理もされていなかったはずの分子や原子の振る舞いについても触れられています。

このガスの塊の中心で、私は直接、宇宙空間に浮かんでいた。私の身体は粉々に砕け、やがてそれもまた蒸気となって、地球の蒸気と――今はただ赤く燃えながら、巨大なガスの集積となって、かろうじて球形を保っている地球の蒸気とひとつになった。私は原子となり、地球を形づくっていた無数の原子に混ざった……

ヴェルヌ. 地底旅行 (光文社古典新訳文庫) (Japanese Edition) (Kindle の位置No.5824-5827). Kindle 版.

こういった発想ができるあたり、ヴェルヌの想像力のたくましさと、直感の鋭さを感じさせられました。

この本を読んでみて

発行されて150年以上経過しても楽しめる古典SFとして教養として読んでみるかって気持ちで手にとったのですが、想像以上の名作でした。

特にリーデンブロック教授のキャラクターには楽しませてもらいました。教授の色にだんだんと染まっていくアクセル助手の成長を心配にもなります。

サクッと楽しむのならマンガ版がおすすめです。進化論や原子論の下りはサラッと流されていますが、原作に忠実に描かれていますので大変おすすめです。全4巻と読みやすいですよ。

一方の映画版。これはほとんど別物です。地底に入って地上に出てくるという部分を除けば別作品だと思って見てみましょう。ご都合主義のオンパレードで少し萎えるかも。

とはいえ、原作は科学技術が大幅に進歩した21世紀でも十分に楽しめる稀有な作品でした。読むなら新しく翻訳されたものをおすすめします。脚注が充実していたり、今風の読みやすい言葉で表現されています。