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人間はAIより賢いか?「AI vs 教科書が読めない子どもたち」感想|読解力を確かめよう

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f:id:Ziddorie:20180930015919j:plain子どもたちの読解力はAI並みじゃないことを確かめたかったが…

AI vs 教科書が読めない子どもたち

何でもかんでも「AI vs 〇〇」みたいに対立や危機感をいたずらに煽る論調は好きではありませんが、確かにこの本を読めば危機感を感じざるを得ません。

この本のテーマはAIによって仕事が奪われて日本に失業者があふれるのでは?という単純なものではありません。確かにAIによって置き換えられる仕事もあるでしょう。その時、AIに仕事を取られない上で大事なのがAIに置き換えられない仕事に就くって事。言い換えればAIの苦手分野の仕事に就けば失業は免れますよね。

ではAIの苦手分野ってなに?っていうと「意味を扱う」ということ。例えば「犬」って言う言葉一つとっても、「我が家の犬」と「会社の犬」ってこんなに短い文書なのに意味が全く違ってきますよね。こういう文脈や文書から読み取る”意味”を扱うのがAIはとても苦手。

著者の新井氏はAIを使って東大合格を目指す「東ロボくん」プロジェクトの第一人者。そのプロジェクトを通して、AIに問題文を読ませ、意味を理解させることが本当に難しいと実感したとのこと。また、大学入試をテーマにしたプロジェクトでもあるので学生との接点もあったのです。プロジェクトを通して、AIに解かせた問題を学生に解かせて見ると衝撃の事実がわかりました。

 

サイコロ並みの子どもたち

この本の挑戦的だったところは中1から高3までの読解力をテストしたところです。本の中ではReading Skill Test(RST)と読んでいます。そのRSTの例題がこのようなものです。

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Image:アマゾン商品ページより
他にも文書の意味とグラフの内容を一致させる問題もありました。

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Image:アマゾン商品ページより
どちらもAIが苦手とする言葉や文書の意味を問う問題です。気になる人間の子どもの正答率はというと、なんと30%程度。もちろん問題にもよるのでしょうが、ランダムに4択のうちから1つ選んだときの正答率と同じ程度だったのです。これではAIといい勝負です。

 

人間の子供の読解力はAIと同等程度?

高校生ですらサイコロ並みの正答率しかでないのなら、大学、社会人になったときにどうなるのでしょうか。読解力がなければ、論文みたいな高度な文書が読める訳ありません。Wikipediaだって怪しいかもしれません。そんな読む能力がない状態で論理的思考が操れるのかと著者は危惧しています。

AIによって置き換えられない仕事に就こう、AIが苦手な仕事は意味を扱うような仕事だ。でも、肝心の人間も意味を十分に読解できないってなると、その人自体をAIに取って代わられても問題ないようにすら思えます。

学生に限らず、これからも社会で仕事に就き続けようとするならば読解力や論理的思考を養う必要があります。残念ながら本著には読解力の向上に関する訓練方法などはありませんが、大人になってからも読解力や論理的思考の向上が見られた例がいくつか上がっています。

 

読解力は学力の土台

読解力を試すReading Skill Test(RST)の点数と偏差値の関係性についても語られています。もちろんRSTの点数が良ければ良いほど偏差値も高くなっています。このRSTと偏差値の相関は体重と身長、駅からの距離と賃貸物件の家賃くらい強力な相関を持っていました。

この結果から言えるのは読解力が高ければ高いほど学力も高くなっているということです。この本の中に印象的な文書がありました。

RSTで要求するような文を正確に、しかも集中してすらすら読めなければ、スタート地点に立つことさえできないように作られているのです。そのような入試をパスできるような能力があれば、後の指導は楽です。高校2年まで部活に明け暮れて、赤点ぎりぎりでも、教科書や問題集を「読めばわかる」のですから、1年間受験勉強に勤しめば、旧帝大クラスに入学できてしまうのです。

新井 紀子. AI vs. 教科書が読めない子どもたち (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2729-2733). Kindle 版. 

この本を読んで、自分の学生時代を思い返してみれば、わざわざ学校に行って授業を受けていたのは、もしかしたら当時の自分は教科書に書かれていることを十分に理解しておらず、その理解の補完を先生にやってもらっていたのでは?とも思います。教科書を十分に読解、もしくは読解する訓練を重ねていたら、もっと学力も上がっていたのかも…とも思い、今からでも読解力を鍛えようとも決心しました。

 

この本を読んでみて

こういうAI vs 人間みたいな対立を煽る表題は気に入りませんでしたが、読んでみて正解だと感じました。序盤はAIの限界について語ったり、その裏付けとなる理由の解説に終始していて、少々退屈でしたが、途中の「子どもたちの読解力はAIと変わらない」ってところから一気に面白くなりました。

本著を読んでいると「このままで大丈夫かよ…」って薄ら寒い危機感も感じました。と、同時に「自分はちゃんとこの本を読めているのか?」という、自分の読解力にも不安を感じました。不安に感じたので、この本を購入して読む技術を鍛えたいと思います。

本来ならば人間のほうが遥かに優れているはずの意味を扱うという営みをAIによって置き換えられたら、24時間265日休みなく働けるAIに人間の勝ち目はありません。残された仕事は誰にでもできるけれど、誰もやりたくないような低賃金の仕事になるでしょう。だからこそ大人も子どもも読解力や論理的思考の訓練、AIに出来ないことを仕事にすることが大事なのです。

AIの進歩による未来はバラ色か、それともディストピアか。結局は当人の人間としての能力次第にかかっているのかもしれません。