ライトなのはイラストだけ。
異世界語入門
一時期流行っていた異世界転生モノの疑問を解決してくれた(?)のがこの本。異世界に転生したら絶対に日本語なんて通じないでしょ?。でもなんで色んな本では転生したその瞬間から日本語と同じように異世界の住人とコミュニケーションできてるの?
そんな、ごく基本的な疑問をテーマにしたこの本。気づいたら異世界にいたのはよくある設定と一緒。でもこの本の特徴的なのが「いきなり言葉が通じない世界に放り込まれた主人公」ってのをテーマにした所。
例によってご都合主義なシチュエーション(辞書が手元にある環境が準備されてたり、図書館が近くにある)はありますけど、言語学に注力した本書ならば、まぁありかな?って思えるレベルには調整されています。
異世界と言っても、よくある中世の世界観だったりしなくて、40年くらい前の中東みたいな雰囲気の世界観。銃があったり近現代的な市場があったりするあたりもよくある異世界転生モノとは一線を画しています。
異世界でどう振る舞う?
主人公の日本人のはと名乗る少女(表紙の女の子)がいる部屋にいることとに気づく。困ったことに彼女が書く言葉・話す言葉が全くわからない。最初はボディ・ランゲージでコミュニケーションをとっていたものの、次第に彼女が話す言葉を解読して自分がという国にいること、そして彼女が話す言葉は語だということを知る。そして彼女とのコミュニケーションを通してが置かれた情勢でと生き残りのための活動を開始する…
みたいなストーリーです。もし自分が主人公と同じ立場に置かれたらどんなふうに異世界の住人とコミュニケーションをとるかな?っていう想像をしながらこの本を読み進めると面白さが倍増。
あと異世界語入門ってだけあって異世界語の作り込みが半端ないことになっています。もちろんこの言葉はエスペラント語のような人工言語で、この本の作者が自分で作っています(!)。アルファベット的な一覧はこちら。
Image:異世界語入門 〜転生したけど日本語が通じなかった〜 - Wikipedia
異世界の言語を徐々に解読していく過程はまるでパズルを解くようなドキドキ感があり、主人公が置かれた状況と限られた情報(解読途中の言語)から最適な行動を導くっていうサスペンス的な要素もあり一気に本を読み進めてしまいました。
解読フローが複雑かつヘビー
この物語の重心が未知の言葉を限らたヒントで如何に解読していくかっていうところにあるので解読フローが複雑かつヘビーになっています。主人公のが師と称えるインド先輩のチート的な言語解析能力によってどんどん言語の解読を進めていきますが、いささかそのペースが早すぎる。
「あれ?この単語ってどういう意味だったっけ?」「この活用はなんでこうなるんだっけ?」って何度もページを戻る必要がありました。紙面が限られているってのも原因かも知れませんが、解読スピードが早すぎて気を抜くと置いてけぼりになっちゃいます。
あと異世界言語に使われているアルファベットが思ったより、英語に引きずられて異世界後の発音がすんなり入ってこない。πがKの音素を有するってわかっててもどうしてもPの音素として読みたくなってしまう。
他にも世界観とストーリーが微妙…世界観やストーリーに重きをおいていないってのはわかっているんですけど、唐突に始まる危機的展開や超尻切れトンボな結末には思わず苦笑い。銃に撃たれてもなんだかんだ無傷な主人公にもどんな能力?世界観?なのか最後まで掴みきれませんでした。
なお、電子版でこの本を買ったんですけど、文芸作品なのにリフローじゃなくて固定レイアウトなところも読みくくてしょうがありませんでした。
主人公との共感を生む読書体験。
そのタイトルと表紙のライトノベル感に反して、取っ付きやすくはありませんが、未知の言語を主人公と一緒に解読して段々とその文書が読めるようになっていくという体験は他の本では体験できないものでした。
ここまでできるんだったらぜひボイスドラマまでメディアミックス展開してほしい。声優さんは凄く大変そうだけど…あと、異世界人からした日本語についても書かれていてとても可愛らしい。異世界人からの視点からの主人公の描写もあってコミュニケーションが徐々に成り立っていく過程を見られるのもこの本のおもしろい体験。
Wikipediaによると続刊が予定されている空気を醸しているので、もしかしたら尻切れトンボだった主人公が転生した世界のその後が描かれるかも知れない…そんな期待もしちゃってます。
とても上手に作り上げられた人口言語を巡るこの物語。読めない言語が徐々に読めるようになるっていうことを体験できる本は非常に少ないですが、この本はまさにそれ。読了にはかなりの労力を要しますが、初めて自転車に乗れたような感覚を体験できる本はまさに稀有。興味があればぜひ読んでいただきたい本です。