言葉にしないと伝わらない。文字にしないと残らない。

アイヌの世界を解説「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」感想

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入念に作り込まれたゴールデンカムイの世界の解説。

アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』

以前にキングダムを歴史的な観点から解説した「始皇帝 中華統一の思考『キングダム』で解く中国大陸の謎」という本をレビューしました。

この本はそのゴールデンカムイ版ってわけです。

 

キングダムの本は実はあの展開は史実に忠実だったところに驚きましたが、この本は作者の作り込みとアイヌ文化の世界観に驚かされました。

ゴールデンカムのアイヌアドバイザーの著者による解説は緻密かつ面白いんです。

表カバー裏に描かれているアシリパさんの衣装の文様ひとつでも実は意味があったのです。

それだけでなく、ゴールデンカムイに登場したあの言動・仕草など、さり気なく描かれていますが、実はアイヌの文化や世界観を表していたのです。

 

マンガでは要所要所でアシリパさんが解説を挟んでくれますが、紙幅の関係でどうしても解説できない部分があります。

マンガでは触れられていないものの、実は意味があったんだよってところをこの本では解説してくれています。

なお、ゴールデンカムのネタバレが多く含まれていますので、この本を読む前にはマンガ原作を読んでおきましょう。

カムイとカムイの世界

アイヌを日本語訳してみると「神」となります。でも、アイヌの場合は普通に神様をイメージする神とはちょっと違うように思います。

 

アイヌの伝統的な考えでは犬1匹・猫1匹もカムイだというのです。

カムイの使いとしてではなく、カムイそのものだといいます。

生き物だけでなく、私達が普段使っているスマホやパソコン、電車だって生き物でもないのにカムイだとみなすというのです。

 

「じゃあカムイはなんなの?」ってなるかと思いますが、カムイとは「人間ができないようなことをするもの」、「人間のために役に立ってくれるもの」をカムイと呼ぶそうなのです。

 

また、人間の世界にいるときのカムイはみな衣装を着ていて、神の世界では人間と同じ形をしているとも考えられています。

その人間界でカムイがまとっている衣装がイヌだったりネコだったりの形なわけです。

 

アイヌはもともと狩猟民族であったため、自然との持ちつ持たれつの関係でした。だから自然を擬人化してお互いをパートナーとして認識しやすくしたのかもしれませんね

「ヒンナ」という意味は?

作中に出てくる美味しそうな食事シーンで必ずと行っていいほど出てくるのが「ヒンナ」。食事シーン「美味しい」とい意味かといつの間にか勘違いしがちですが、実はそうではありません。

 

「ヒンナ」を日本語に訳すると「どうも」とか「ありがとね」などのちょっとした感謝を表す言葉なのです。ちなみに「美味しい」のアイヌ語は「ケラアン」。ケラ=味、アン=ある、という分解できるので、「味がある」って意味ですね。

カムイ(自然)と持ちつ持たれつの狩猟生活を送っていたアイヌの人たちは「ヒンナ」という言葉を使ってカムイに感謝していたのでしょう。

 

ヒンナという言葉は、ごちそうさま・いただきますという食べ物に感謝する言葉と捉えたほうが、しっくり来るような気がします。

フィクションと事実の絶妙なバランス

この本の作者も言及しているのですが、ゴールデンカムイのすごいところはフィクションと事実の絶妙なバランスだといいます。

フィクションとリアリティの絶妙なバランスのとり方が「ゴールデンカムイ」の真骨頂であり、序章でも述べたように、アイヌを描くにあたって、これまでリアリティを追求した漫画も、フィクションに徹した漫画もありましたが、それをミックスして、これほどまでに広範囲な読者を、実際のアイヌ文化への関心に引き寄せた作品はありませんでした。

中川裕. アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2432-2435). Kindle 版.

まさにその通りだと感じます。フィクションによりすぎるとアイヌファンタジーになっちゃいますし、リアリティによりすぎると退屈になってしまいます。

 

そのへんのバランスを上手く取りつつ、わたしのようにアイヌ文化に関心がなかった人も取り込めるというのは、このマンガの妙技と言えるでしょう。

フィクション描写はいろいろあるんですが、一番のフィクション描写がなんとアシリパさんが狩りをするところ。

何故かと言うとアイヌでは基本的に女性は狩りをしないそうなのです。達人級の狩りの腕前をもつアシリパさんは現実のアイヌの世界では異質な存在なのかもしれません。

この本を読んでみて

ゴールデンカムのマンガの中にはいろいろなアイヌの神話が出てきます。

そういった物語にもいろいろ触れられていますし、日本人とアイヌ人との戦争の歴史やアイヌの文法や方言などにも解説があります。

 

新書一冊に大変詰め込み過ぎな感もありますが、それくらいゴールデンカムイは事実の部分をしっかりと描かれているということなのでしょう。

作中のアイヌの方言に苦労したエピソードやその方言に読者から驚きの手紙が届いたことにも触れられています。

 

作りに作り込んだ設定がありながらも、マンガの紙面に出さないところも読者の心を掴んだ一員なのかもしれません。

先にも書きましたが、ネタバレが多く含まれているので、先にマンガ原作の方を読んでおくことをおすすめします。アニメも見ておけば、なお良し、です。