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キングダムがもっと面白くなる!「始皇帝 中華統一の思想 『キングダム』で解く中国大陸の謎」感想

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キングダムが何倍も面白くなります。

始皇帝 中華統一の思想『キングダム』で解く中国大陸の謎

今年のはじめからずっと読んでいるマンガがあります。それがキングダム。秦の始皇帝がどのように中華統一を成し遂げていくかを描くマンガです。今年は映画化したりしているので知っている人も多いのではないでしょうか。

この本はキングダムに歴史的な解説を加える本です。解説は古代中国思想史の専門家の先生によるものですが、決して解説文臭くなく読みやすい。なにより要所要所にキングダムの紙面を引用しながら解説を加えてくれるので「このシーンにはこんな意味があったのか!」と驚きとともにキングダムを振り返ることができます。

この本を読む前、キングダムを読んでいると「これはフィクションだろ…」とか「誇張がすぎる」とか思っていたところも実は本当のことだったりします。そのような点を解説されると「古代中国スゲー!!ってかキングダムの作者はなんでこんなことも知ってんの?!」と尊敬の念を抱かずにはいられません。

キングダムがお好きなら間違いなく読むべき本、「始皇帝 中華統一の思想『キングダム』で解く中国大陸の謎」。キングダムのマンガを更に楽しめるようになるだけではなく、中国の歴史や思想を一通り振り返ることができます。そして秦の時代から2000年以上経った現在、贏政が描いた中華が21世紀で実現しようとしてるとも言えると結ばれています。

※直接的なネタバレはありませんが、マンガを40巻くらいまで読んでから本書を読むことをオススメします。

 

繰り返される中華統一。でも…?

中国の歴史を振り返ってみると、何度も皇帝が入れ替わり、統一と崩壊が繰り返されています。悲しいかな秦もわずか15年で崩壊してしまいます。中国の統一と崩壊が他の歴史上の国と異なるのは、必ず中華全土を統一し直しているのです。

例えば巨大な領地を支配したローマ帝国やモンゴル帝国は一度崩壊してしまったら、その領土を再び手にした国はありませんでした。領土内のそれぞれが分離独立して新たな国となりました。でも中華は違います。秦が平定した領地の統一と崩壊を繰り返しているのです。日本のように島国でもない大陸なのに、です。

どうしてそういった特殊な統一と崩壊を繰り返しているのかというと、秦が初めて統一したときの影響があまりにも強かったからです。キングダムではマンガという特性上、戦場の描写が中心ですが、秦が築いた制度の基盤は秦が崩壊したその後2200年以上も中華を支える基本となっています。

その基盤とは…?キングダムを読んだことがある人なら、きっとピンくると思いますが「法」です。贏政は「法の下の平等」を掲げ「信賞必罰」を徹底してきました。良いことをすると必ず褒美を与え、悪いことをするとこれもまた必ず罰を与えるという考え方です。秦が築いた「法の下の平等」と「信賞必罰」は秦が滅びた後も色濃く中華に根付きます。

 

フィクションと実話

キングダムではいろいろな意味で人間離れした人物が多く登場するので、何人かは架空の人物だろうと思っていたのですが実はそんなことはなく、ほとんどの人物が実在した人たちです。メインキャラクターでの架空の人物は河了貂くらいなものです。キングダムの登場人物の描ききれなかった部分まで本書で深掘りすることができます。

一方、登場人物以外にも劇中で描かれた戦略も歴史的な背景から考察されています。マンガだからフィクションだろうと思っていた描写が実は史実と一致していたという例がたくさんあります。例えば王翦の仮面。当時の歴史背景を考えると戦のときに仮面をかぶっているのは装備以上の意味があったといいます。他にも実際に行わた戦車戦の様子や龐煖の騎馬戦など、一見誇張のようで誇張でなかったということに驚くことでしょう。

 

秦の理想は21世紀にも息づく

翻って現代。本書は贏政の理想が21世紀の現代にようやく実現しつつあるといいます。それが中国で浸透しつつある「評価スコア」です。評価スコアとは個人に結び付けられる社会信用の評価基準です。評価スコアが高ければ融資やローンを受けやすく、逆に低ければローンはおろか飛行機にすら乗れないなんてことになりつつあるそうです。

これらは料金の支払いに遅延がないか、どんな会社に勤めているかなどの様々な要因から決定されるといいます。これらの評価は監視社会によって成り立っているとの批判もあるようですが…現代中国の「評価スコア」は秦が2200年以上前に組み立てた概念、「信賞必罰」に共通しているように思います。

 

この本を読んでみて

キングダムというマンガ。今年読み始めたマンガでダントツで夢中になっています。それは物語がドラマチックだからというのもあるのですが、やはり歴史に裏付けられたリアリティが描かれているからではないでしょうか。

この本を読むと当時の歴史的背景をキングダムの紙面を引用しながら解説してくれて、よりキングダムを楽しむことができるようになります。贏政が統一後の中華や秦が崩壊しあとの中華についても語られています。もちろん現代中国についても言及が及んでおり、こんなことを言っています。

現代において東アジア共同体が成立するとしたら、日本や韓国、ベトナムといった国々が「中国大陸帝国」に飲み込まれる形でしかありえないだろう。一国だけ、人口や国土が大きすぎるのだ。これが、東アジアで地域連合体が成立しない最大の理由である。

渡邉義浩. 始皇帝 中華統一の思想 『キングダム』で解く中国大陸の謎 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1747-1749). Kindle 版.

何やら空恐ろしくなるようなことを言っていますが、確かに2200年以上前にこのような大国を作り上げたのですから、中国の潜在能力は計り知れないものなのかもしれません。

殷の時代から現代までの中華をキングダムを中心に振り返ることができるこの本。ぜひキングダムを読んでから試してみてください。とはいえキングダムが完結するのはまだまだ遠そうです。マンガ原作は50巻を超えてもなお、だってまだ1国も攻め滅ぼしてはいないのですから。