世界は思った以上に酷くないと思えるかも。
ファクトフルネス
有名なTED講演者であったハンス・ロスリング氏による世界の統計を偏見なしに見つめ直す本です。有名なTEDトークはこちら。この講演がこの本の基盤となっています。
世界は悪くなっている。テロは頻発するし、殺人事件だって日常茶飯事。
国内外では格差が広がり、極度の貧困にあえぐ人たちが増えている…って思っている(なんとなく感じている)人は多いのではないでしょうか。
暗いニュースが世間には溢れているように思えます。
悪いニュースばかり見ていると世界は悪くなっていると思うのは当然かも知れません。
でもこの本は「実はそうじゃないよ!世界はより良い方向に進捗しているんだよ!」って言うことを教えてくれます。
本当のことを教えてくれる以外にも、世界を悪いように見えてしまう原因である10つの本能について解説してくれています。
まずはこのクイズをやって、どれだけ自分が歪んだ世界の見方をしてしまっているか見てみましょう。
普段ニュースをよく見る人、世界情勢に詳しい人ほど間違ってしまうと言われるクイズです。
3択のクイズなのですが、チャレンジした人の正答率はランダムに選んだ割合より低いんです。
わざと間違いを選んでいるようなもので、文字の読めないチンパンジーより正答率が低いので、チンパンジークイズと呼ばれています。
専門家ですら正答率は10%程なのですから。
どうしてこんなに世界に対する認識と現状が乖離してしまったのでしょうか。
この本を読めば先入観とメディアにとらわれず、世界を見る方法のヒントを得ることができるでしょう。
ニュースになるのは悪いことがほとんど
「本日羽田空港を離陸した飛行機の着陸率100%」「JR山手線は本日も事故なしで運行」なんてニュースを聞いたことがあるでしょうか。
私はありません。聞いたことのあるニュースは「どこどこ空港にて飛行機が着陸失敗」「なになに線で脱線事故」みたいなニュースです。
悲劇的だったりショッキングな出来事がニュースになります。
そしてそのたぐいのニュースはインターネットを通じてまたたく間に広がります。
今や世界の裏側で起きた出来事が1時間も経たずに速報として耳に入ります。
人間には、よりドラマチックでネガティブなものに注目してしまう本能があるのです。
逆に先にあげたハッピーなニュースはほとんどありません。
そんな記事を書く記者がいたら真っ先に首になっちゃうでしょう。
「そんな当然のことを書くな」って。
ですが、こういったことが当然になっていることは素晴らしい進捗なのです。
ゆっくりとした進歩はどんなに大規模で沢山の人に影響を与えようともなかなかニュースにはなりません。
金持ちでもない庶民が当たり前に安全な飛行機を利用できるようになったというのは人類にとって大きな進捗ですが、良いことの歩みがゆっくりなので、気づくことはなかなかありません。そしていつの間にかそれが当たり前になってしまっています。
2種類の人間しかいない、という思い込み
世界には2つの種類の人間がいて、「わたしたち」と「あの人たち」で表現されると思ってしまう偏見を分断本能として、この本に紹介されています。
確かに、豊かな国ではない国って?となると貧しい国と考えてしまいます。南北格差として学校で習ってきたこの格差は根深く心に残っていますが、世界はそんなに単純な分断をすることができません。
こんなふうに世界を見るのは、温泉街には熱湯風呂と水風呂しか無いと思うくらい極端だといいます。
こういった考え方をしてしまうのは単純で処理しやすいからです。
例えば地球上には普通の暮らしをする人と極貧の生活する2種類の人しかいないと考えるのは簡単ですが、実際は4つの所得レベルに分類したほうがより世界を正しく捉える事ができます。
- レベル1:1日2ドル以下で生活
- レベル2:1日8ドル以下で生活
- レベル3:1日32ドル以下で生活
- レベル4:1日32ドル以上で生活
この中で一番人口が多いのがレベル2の所得水準です。
そしてレベル2と3を合わせると50億人になります。
レベル1で暮らす10億人の人たちも過去20年で半分以下に減りました。
そして20年後にはレベル3の人たちが最も多くなります。
日本はレベル4に属しているので相対的に世界には貧困が蔓延していると捉えてしまいますが、実情はもっと良くなっていると思いませんか?
見る目が変われば自分が変わる
ファクトフルネスには正しく世界を認識するのを邪魔する10つの本能が紹介されれています。
先に紹介した悪い情報ほど強く記憶してしまう「ネガティブ本能」や彼我の分断をしてしまう「分断本能」。こういった本能が世界を歪めて見てしまう原因となっています。
「ネガティブなニュースばかり流すメディアが悪いんだ!」って思う人もいるかも知れませんが、それも人間の本能がそうさせているんです。ファクトフルネスの中では「犯人探し本能」として紹介されています。
こういった本能を理解していくと、どれだけ自分がうがった見方で世界を単純化して理解したつもりだったのかわかります。
教科書やニュースの数字だけを見て理解したつもりになってしまいます。
数字、データは嘘をつかないからです。でも、本著にこういった文言が出てきます。
数字を見ないと、世界のことはわからない。しかし、数字だけを見ても、世界のことはわからない。
ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド. FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1917-1918). Kindle 版.
数字や情報に頼ってわかったつもりになってはならないというのは日常生活でも言えることなのではないでしょうか。
この本を読んでみて
ファクトフルネスを読むと自分が思っていた以上に世界が良くなっていることを知ることができます。でも世界にはまだまだ治療が必要です。
「良くなっている」ことと「完全に良くなった」ということは全く別物ですよね。
膝を擦りむいて絆創膏を貼って、これで元通りって言っているようなものです。
「人間は小さなことに対して敏感であるが、大きなことに対してはひどく鈍感なものである。」(パンセ断章198)
ひどい事件や事故を小さなことと断ずるつもりはありませんが、世界中で起きているゆっくりとた進捗は知らないだけで想像以上に大きかったのです。
この本を読むまで知りませんでした。そんな進捗を知らしめてくれる本でした。
著書の最後で、人類にとって極度の貧困からの脱却は200年以上に渡る長距離レースだと書かれています。
それと同時に私達の次の世代でゴールテープを切るチャンスがあるとも書かれています。
この本を完成して亡くなったハンス・ロスリング氏のこの著作は読んだ人の目を開かせてくれる、世界に残る一冊になるでしょう。