岳の作者が描くジャズ×青春物語
ブルージャイアント
ジャズに出会った高校生、宮本大が地元仙台の小さなバーから東京の名門ジャズバーで演奏するまでに至る過程を描くのがこのブルージャイアントです。
東京からヨーロッパで活動の場を移したその後を描くのがブルージャイアントシュプリームです。
わたし個人としてはシュプリームよりも無印版の方が青春物語として感動的でした。
ジャズに打たれた高校生、宮本大は独学でテナーサックスを吹きまくります。
楽譜も読めなければコード進行も知らない。
そんな彼ですが、師匠とも言える人物に出会い、本格的なジャズプレイヤーとしての人生を切り開いて聴きます。
ジャズを知らなくてものめり込んでしまうドラマと紙面から伝わる音楽の表現が秀逸で、迫力のあるライブ感がヒシヒシと伝わってきます。
ジャズを通して出会い、別れていく人間模様を丁寧に描いた人間ドラマにも注目です
紙面から伝わる音圧
音楽マンガで難しいのがその音楽をどうやって音の出ない紙面から伝えるかでしょう。
ライブ会場の雰囲気や演奏者が奏でる音楽をどうやって表現するかが作者の腕の見せ所と言えるでしょう。
その点、ブルージャイアントは細かい線をたくさん描くことで音を表現しています。
音楽をシャワーのように表しているようです。
ビリビリと響くサックスのベル(開口部)が宮本大の人並み外れた肺活量による大音量と流れ出るメロディを巧みに表しているように感じます。
巻末の後日談がいい!
ブルージャイアントの気に入っているところは他にもあります。
それが単行本の巻末にある後日談マンガです。わたしはこの後日談マンガが大好きで、むしろこれを読むために本編を読んでいると言ってもいいかもしれません。
後日談マンガには何年後かの登場人物が宮本大について誰かからインタビューを受けているのです。
「彼(宮本)とのライブは…」とか「あの時のレコーディングは…」とかちょっと年をとった登場人物が、その巻の出来事について振り返ります。
連載では描ききれなかった舞台裏を垣間見えるようで、とても大好きな後日談シリーズです。
登場人物の心情をありありと描いてくれていて、より感情移入してしまいます。
ただ、宮本本人が出てこないので「実はこれって宮本が亡くなってて…」なんて邪推をしてしまいます。
なんでそんな邪推をしてしまうのかと言うと物語の展開が岳に似ているのです。
やはりでた…阿久津ポジィ…!
このマンガに出てくる人物は皆、いい人なのですが不幸な結末に落ち着く人がいます。
作者である石塚氏の作品「岳」に登場する阿久津隊員のような人物です。
阿久津隊員は子供が生まれて山岳救助隊としての使命に燃えるのですが、脈絡なく突如訪れる悲劇は作中でも屈指の悲劇でしょう。
そんな彼のポジション、阿久津ポジション。通称、阿久津ポジ。
そんな阿久津ポジションは本作にも登場します。
ブルージャイアント無印で、この展開はまさか…と思っていたら「やっぱり!でた!!阿久津ポジ!!!」となってしまいました。
絶頂からの転落という悲劇的な結末を描くのは作者の十八番なのでしょうか。
シュプリームでも誰が阿久津ポジとなってしまうのか本当に不安です。
だから後日談でも実は宮本が亡くなっている…?と勘ぐってしまうのです。
後日談の中では宮本から年賀状が届いたというエピソードもあるので(まだ)死んではいないようですが…
関連するマンガ・本
ブルージャイアントの作者の代表作である「岳」は南アルプスに関する様々なエピソードを集めた短編集です。
最初はエピソード間には緩いつながりしかなかったのですが、物語が進むにつれて繋がりのある物語となり、悲劇的な結末となります。
アマゾンのレビューも大荒れでした。
岳を描くだけの登山・クライミングを20代前半までやっていてジャズの引き出しもあるのかと驚かされました。
明るい気持ちになりたいのであれば「東京チェックイン」がおすすめです。
こちらも短編集ですが1巻で完結しています。
東京の下町の民宿に集まる様々な外国人との交流を描くほんわかした物語です。
このマンガを読んでみて
無印のブルージャイアントでは不幸にも阿久津ポジの登場人物が出てきましたが、シュプリームでは阿久津ポジも三歩ポジも発生しないことを祈ります。
にしても作者の石塚先生の多彩っぷりには驚かされますね。
20代まではクライミング。30歳を前にして漫画家に転向。映画化されるほどのマンガを描いた上に、ジャズの引き出しまで持っていたという…
ライブの緊張感と熱狂はどこかスラムダンクの山王戦を彷彿とさせます。
ずっと緊張感が続く感じは格闘技を見ているかのよう。
ジャズの知識がなくても楽しめる、とても良く出来たジャズマンガでした。
宮本大の成長が感じられる続編、ブルージャイアントシュプリームもおすすめです。
本記事サムネイルはamazon商品ページより引用しました。