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言葉にしないと伝わらない。文字にしないと残らない。

電子書籍が紙の書籍の発売より1ヶ月遅れるラグはなぜ発生するのか考えてみる

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ルビのせいなのか…?紙の本と同等に扱ってほしい、扱いたいが…

電子書籍の発売が遅いのはなんで?特にライトノベル

電子書籍は紙の本と比べて1ヶ月ほど発売が遅れています。電子書籍がだいぶ浸透してきたのに、まだまだ根強いこの問題。特に書籍系(主にライトノベル)の電子書籍の発売は軒並み紙の本と比べて1ヶ月は発売が遅れています。それなのに、同じ電子書籍でもコミック系の電子書籍だと、ほとんどが紙の本と同時発売となっています。

なぜそんな事になっているのか。読者側だった頃はかなり憤っていたのですが、過去に電子書籍(ラノベ系)のお仕事に絡んで、「この状況だと1ヶ月遅れるかもしれん…」とも思ってしまいました。元関係者としてどうして文字物の電子書籍の発売が1ヶ月も遅れてしまうのか考察してみたいと思います。鍵となるのは日本語特有の「ルビ」です。

電子より紙の本を買ってほしい?

もしかしたらこう思う人もいるかも知れません。「紙の本を先行発売することで、いち早く作品を読みたい読者は紙の本を買うだろう」と。私も一時期までそう思っていました。「早く続きが読みたいなら紙の本を買えよな~」って意地悪な出版社はそういう策略をしているんだって。

ですが、電子書籍と紙の書籍の利用者はうどんとそばくらい別物なんだって、いくら出版社でもわかっています。電子の本を選ぶ読者は紙の本ではなく、電子の本がほしいから電子の本を買うんであって、いくら発売を遅らせたところで紙の本を買うという選択はしないはず。何が何でも紙の本を買わせたいなら電子の本を作らなければいいだけのことですから。

加えて、ただでさえ先細りの出版産業なんですから、売上が立つんだったら紙の本だろうが、電子の本だろうがとにかく早く売りたいはず。いくら紙の本の方が売れたほうが嬉しいからって、”わざと”電子の本の発売を遅らせることって戦略としてあり得るんでしょうか?

 

電子の本にするのに時間がかかる?

つぎに考えられるのが電子書籍を作るのに時間がかかるのでは?ってこと。実際に「電子書籍って作るのに時間かかる」って聞いた時「何を言ってんの?」くらい理解が追いつきませんでした。だって入稿データは電子データですよ?そんな電子のデータをそのまま電子の本にするだけなのになんで時間がかかるんだ?って思ったんです。

今どき原稿用紙にペンで原稿を書く先生なんて本当に稀。絶滅したと言ってもいいくらいです。ちなみにこれまで関わった仕事で1人だけ手書き原稿で入稿してくる先生はいました。その先生の担当はヒーヒー言いながら手打ちでパソコンに入力していましたが…

ちょっと話がそれましたが、電子のデータから紙に印刷して製本して流通させて…ってやるほうがよっぽど時間がかかると思ってたんです。でも、ルビの事情と電子書籍特有の機能が仇になっていたようなのです…

 

なんでこのルビになるんだ!

ある日、制作現場の人から電話で問い合わせが来ました。「なんで禁書目録でインデックスって読むんだ!ルビどうすんだ!」

実際に問い合わせが来た作品は別物でしたけど、ライトノベルって漢字を妙な(失礼)読ませ方をすることが多いですよね。電子書籍をよく読む人ならピンと来るかもしれませんが、電子書籍の文書は画面の大きさや文字サイズの設定によって改行位置が変わります。同じ画面サイズでも大きな文字で表示している時は改行がたくさんあり、小さい文字の場合は少なくなるという具合です。文字サイズやディスプレイサイズによって、文字の流れが変わるので「リフロー」とも呼ばれています。

リフロー型の電子書籍の場合、こういった特殊なルビが付く漢字が行末に来た時、ルビが行別れになる可能性があります。例えば禁書目録をインデックスと読ませる場合、こんな風になります。

~~~~~~禁書
目録~~~~~~
横書きだとわかりにくいですけど、「禁書」の後に改行し、次の行は「目録」から始まります。この場合、ルビってどこで改行されるのでしょう?

~~~~~~禁書(インデ)
目録(ツクス)~~~~~~
これだと文字数は均等ですけど、インデックスのちっちゃいツがカタカナ小文字の行頭禁則に引っかかりそうですよね。ルビだと大文字にしちゃうことも多いんですけど。

~~~~~~禁書(イン)
目録(デツクス)~~~~~~
これが正しいとすると禁(イ)書(ン)目(デツ)録(クス)と漢字にルビを振ることができそうです。これでどこで改行が来てもルビは振り分けられそうです。やったぜ!

そうしているとまた問い合わせが来ます。「一方通行でアクセラレータって読むんすけど、これルビどうしましょう?」

もしかしたら電子書籍の場合こういったルビの作業にとんでもない人手と時間がかかっているんじゃないか?って思ったんです。

 

なぜ紙の本では問題にならなかったのか

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紙の本だとこういったルビが来ても、前後の文字送り(文字と文字の間の幅)を調整してルビが泣き別れにしないようにできるんです。で、紙に印刷してしまえば改行位置が変わることなんてないので、こういう問題なんてなかったんです。

他にも電子書籍特有の問題があります。例えば特殊な漢字。これまたライトノベルにありがちですけど、やたら難しい漢字使ったりするじゃないですか。そういう漢字ってリーダーによっては化けたり、最悪の場合、文字が表示されなかったりするんです。

こういう現象を出版社、特に制作会社は非常に嫌います。印刷して検査して終わりだった紙の本に対して、いろんなデバイスとビューアで見られる電子書籍は改行の設定や漢字の化けのチェックで時間が取られているようでした。今もそうやっているのか、現場を離れてしまったのでわかりませんが、制作現場では電子書籍のファイルを紙に出力して紙の本とペラペラと見比べて文字抜けがないか、一文字も文字を漏らさないように努力をしていました。

一方で、こういった検査や作業が必要ないマンガの電子書籍は紙の本と同時に発売できるってわけです。

 

日本語ゆえの問題か?日本ゆえの問題か?

この記事を読んでいる人の中には「ルビなんてどこで改行されていようがどうでも良いよ!」って思う人もいるでしょう。でも実際に、変な改行がされている文書を読むと戸惑います。たとえばこんなSFを読んだことがあります。

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引用元:ロバート A ハインライン,矢野 徹. 月は無慈悲な夜の女王 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.30-31). Kindle 版.

本物の思索家にディンカム・シンカムというルビを付けているので、途中で改行ができず、ルビが始まる部分から改行されています。だから前後の文書と改行位置が違っていて「あれ?ここで段落終わり?あぁ、次の行に続いていたのね」と一瞬思考が読書から引き剥がされます。

縦書きという特殊な日本語という言語と日本語にあるルビという文化が、横書きが基本の電子書籍(HTMLとCSS)の世界では異色すぎなのでしょうか。それでもできるだけきれいな組版を実現しようとする日本人的な職人魂が電子書籍の1ヶ月の遅れを引き起こしているのかもしれません。

 

それでも紙も電子も同時発売してしい

現在もルビや漢字や改行問題が電子書籍の発売の遅れの直接の原因になっているのか、当時の職場を離れてしまったので知るよしもありません。もう5年以上も前のことなので、技術的な進歩や生産効率も上がっているかもしれません。それでもなお1ヶ月程度発売が遅れているということは権利的な処理が紙とは別に処理が必要だとか、印税関係、ストア側の問題なのかもしれませんが。

読者として一言あるとすれば「紙と電子は同時発売してよ」ってことだけです。乱暴な言い方をすれば「電子の発売が遅れるんだったらそっちに紙を合わせろよ」とも思います。紙の読者と電子の読者を差別しないでくれよって。

一方で関係者の立場からしたら「このルビ、どうやって処理するんだろ…」とか「この漢字、全部のデバイスで表示できるのかな…」「お金払って買った本で表示に不具合出たら、申し訳ないなあ…」って思うわけです。

漢字の読ませ方や常用外の漢字の使用は作家の先生の表現です。その表現を余すところなく伝えるのが媒体たる本の役割です。今まではその媒体は紙の書籍だけが担っていましたが、電子書籍が最近加わったわけです。これまでの紙の本の制作・流通に最適化された環境下では、電子書籍の発売日の遅れは出版社や制作会社だけの努力でなんとかなるものではなさそうです。

まだしばらくは紙の本と電子の本との同時発売はできそうにないのでしょうか。