言葉にしないと伝わらない。文字にしないと残らない。

何かに挑むのに遅すぎるなんてことはない。”ヤクザときどきピアノ”感想

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ヤクザ専門ライターを震わせたのはピアノ

ヤクザときどきピアノ

「ダンシング・クイーン」に心打たれてピアノを始めた50歳代おじさんの体験談。

そのおじさんの職業は暴力団専門のライター。

前作の「ヤクザとサカナ」を仕上げたその足でたまたま入った映画館。そこで見たのは「マンマ・ミーア!」というABBAのミュージカル映画。その映画の中で流れた「ダンシグ・クイーン」を聞いた瞬間、涙が止まらないほど感動してしまいます。

音楽とはこんなにも素晴らしいものなのかと心打たれ、そのノリとテンションで音楽教室に電話しまくります。

 

「ダンシング・クイーンが弾きたいんです。でもピアノの基礎を学びたいわけじゃなくて、ダンシング・クイーンだけ弾ければいいんです」

こんな注文をつけるおじさんを受け入れてくれる教室はなかなか見つかりません。

ようやくレイコ先生というピアノの先生に出会い、ピアノのレッスンを積みます。

発表会をに向けて二人三脚でダンシング・クイーンを練習していきますが、レイコ先生との練習内容や著者との会話が実に素晴らしい発見に溢れいてるのです。

 

この本を1冊読み終わる頃には、音楽に限らず、何かを始めようとモチベーションがフツフツと湧き上がり、前向きな気持になれることでしょう。

レイコ先生との対話

この本は練習中の著者の気付きやレイコ先生との対話を中心に進んでいきます。

レイコ先生の口調は多少脚色しているらしいのですが、それでもレイコ先生の言葉は著者にも読者にも気づきを与えてくれます。

 

著者はダンシング・クイーンが弾きたいという決意を持ちますが、本当にそれができるかどうかわからない。でもレイコ先生との対話で著者は気づきます。

それが練習という単純で難しい行為です。

練習をすれば上手くなる。練習をしなければ一切上達しない。やればできる。やらねばできない。そして、練習をしない言い訳にはなんの意味もない。

鈴木 智彦. ヤクザときどきピアノ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.989-992). Kindle 版.

それでも生まれて50年ピアノに触れてこなかった著者はダンシング・クイーンの楽譜を前にやっぱり不安になります。その時レイコ先生はこう言います。

「俺は弾けそうですか?」(著者)

「それは保証する。YOU CAN DANCE」(レイコ先生)

鈴木 智彦. ヤクザときどきピアノ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1011-1012). Kindle 版.カッコ書きは管理人が付記

 レイコ先生はピアノの先生ですので著者よりも遥かにピアノを上手に演奏します。

「先生すごい!かっこいい!」俺の稚拙な賛辞を聞くたび、先生は「ピアノを触った時間が多いだけ」と素っ気なく答えた。(中略)

練習しないと弾けないの。弾ける人は練習をしたの。難しい話じゃない。

鈴木 智彦. ヤクザときどきピアノ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1113-1114). Kindle 版.

練習がすべて。練習こそが正義という考え方は音楽の世界だけにとどまらない考え方です。

でも「練習をやらされている」・「練習が目的になっている」となってしまえば、どうしょうもならないともレイコ先生は言います。

「自分が『弾きたい』・『できたい』と思い続けること」究極はそこだと言うのです。

関連する作品

著者をピアノの道に引き込んだのが、このアーティストの名曲です。映画化されていますし、超有名曲なので一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

本書とはだいぶ毛色は異なりますが、この本が示している考え方は音楽の世界にも通じるようです。

本書が引用している「弓と禅」という本にこういう下りがあります。

すなわち術は術のない術となり、射ることは射ないこと、言い換えれば弓矢なしで射ることとなる。

鈴木 智彦. ヤクザときどきピアノ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1240-1241). Kindle 版.

自分が楽器が演奏するのではなく、楽器が演奏するように無我の心で弾くのだと言う点は音楽以外にも言えるのではないでしょうか。

この本を仕上げてたまたま見た映画の「マンマ・ミーア!」がきっかけで、ピアノを始めたのだから、この本がなかったらレイコ先生との出会いもなければピアノを学ぶきっかけもなかったでしょう。

この本を読んでみて

練習だ。とにかく練習だ。練習こそが全てだ。と強面な部分が出てしまいましたが、実際は練習を通して音楽の楽しさに目覚めていく部分がみずみずしく描かれ、ピアノの演奏会当日に向かっていく実際の物語です。

この本のまえがきには

生涯学習は素晴らしいと嘯きたいのではない。何かをはじめるのに年齢は無関係と自己啓発をしたいのでもない。

鈴木 智彦. ヤクザときどきピアノ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.44-46). Kindle 版.

とありますが、内容は新しい物事に挑戦する勇気をもらえることは間違いありません。

一度読み始めたら最後まで一気に読んでしまったほど、物語に引きずり込まれる内容です。

エンタメとしても、自己啓発本としても読むこともできる、満足できる一冊でした。

記事サムネイルはamazon商品ページより引用。