植物が進化の過程で獲得した、からくりを解説
植物はそこまで知っている
植物には五感がある。人の声を聞き、光を見て、枝を折れば痛みを感じるのだ…みたいな本ではありません。
植物にはたくさんのセンサーとセンサーの観測結果によって振る舞いをいろいろ変えるんですよ。
”まるで”五感があるみたいに。
というのがこの本の趣旨。
植物は動かないので古くから格好の実験台になってきました。
それこそダーウィンの時代から綿々と植物に関する実験は続いてきました。
その実験結果から、植物はただ地面から生えているだけなのではなく、外界の世界をいろいろと観測していることが分かってきました。
身近な植物が長い進化の中で獲得してきた、驚くべき、からくりとでも言うような植物の仕掛けを紐解いてくれます。
最初からネタバレのようですが、決してスピリチュアルなとんでも本ではありません。
植物は空の方向を知っている
小学生の頃、朝顔を育てたことありませんか。
その時、種の向きなんて気にしたことなんてないですよね。
どんなに適当に播いたとしても、条件さえ合えば必ず葉が出てきます。根ではなく。
これは植物が重力を感じているということです。
人間が重力を感じるための機関には内耳にありますが、植物には根の先端など多くの場所にあります。
この機関によって重力を感じ、上下を判断しているんです。
面白いことに、人工的に作り出した重力にも植物は反応します。
遠心分離機のように常に遠心力がかかるような環境下で育った植物は、中心方向に葉が伸び、円周方向には根が伸びました。
このような植物に関する実験や植物がどのように外界を感じているかを詳しく解説してくれています。
植物は外界を知っている。だが…
植物に関する実験は近代になって様々な方面に発達しました。
観測機器が進化したからですね。
その御蔭で、葉っぱが食べられたときに仲間に知らせるために、シグナルとなるガスを出すなど、植物が非常に高度な生物であると分かってきました。
植物の研究が進むに連れて、驚愕すべき事実が見つかりました。
それが「植物には脳の受容体が作用する場がある」ということでした。
これは植物が外界を「知っている」ということの裏付けになりました。
しかし、世論は科学者が思っていない方向に進み出しました。
それが植物の擬人化です。
「植物には脳の受容体があるんだから人間と同じように考えたり、感じたりするんですよ。」
というエセ科学が広まって来たのです。
こういう話、聞いたことありませんか?
「植物は人間の言葉を認識して、言葉に応じた成長をする」とか…
このことに著者も苦心しており、このように述べています。
また、植物は知っているからといって苦しんでいることにはならない。植物は見て、匂いを嗅いで、接触を感じることはできても、痛みが引き起こす苦しみを感じることはない。欠陥のあるハードドライブを搭載したコンピュータが痛みの苦しみを感じないのと同じだ。
ダニエル・チャモヴィッツ. 植物はそこまで知っている 感覚に満ちた世界に生きる植物たち (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1913-1916). Kindle 版.
「脳の受容体に作用する場がある」と誤解を与えるような書き方をしましたが、植物には脳はありません。そのことも心に止めておくべきだとも述べています。
植物には脳がないということは、この私にとってもつねに意識しておかなければならない重要なことがらだ。植物には脳がないことをいつも思い出して、植物を安易に擬人化して表現することを戒めなければならない。
ダニエル・チャモヴィッツ. 植物はそこまで知っている 感覚に満ちた世界に生きる植物たち (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1927-1929). Kindle 版.
この本のタイトルは少々紛らわしいですが、決してスピリチュアルな内容ではなく、れっきとした科学に基づいた本となっています。
この本を読んでみて
この本が、スピリチュアルな内容でなくて安心しました。
ちゃんと科学的です。
植物が進化の過程で獲得してきた機能を説明した上で、植物をむやみに擬人化してしまう風潮に警鐘を鳴らしています。
植物は生まれたその場から動けません。
だから様々な工夫や仕組みで身を護る術を長い長い進化の歴史の中で獲得してきました。
植物には脳はないですが、脳がある人間からすると、まるで何かを知っているかのように振る舞います。
でも、それはからくり仕掛けのようなもの。
植物を愛でるあまり、人格を与えるのはフィクションや空想の中だけにしておきましょう。
下記の本は植物の擬人化を極力削除して、植物の仕組みを強調した論調で好感が持てました。