言葉にしないと伝わらない。文字にしないと残らない。

書評「恐い間取り」感想|死の現場で感じるのは生の自覚

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その間取りを見ることは、そこで生きることを感じることだ。

恐い間取り

事故物件住みます芸人の松原タニシさんによる「事故物件に住んでみましたレポート」をまとめたのがこの恐い間取りという本。タニシさん自体に霊感などはなく、霊障に煩わされたことはないそうなのですが、それでもよく住んだものだと感心してしまいます。

本業は芸人というのに、実に読ませる文章を書いているという印象を受けました。とても素朴で自然体な文体なのですが、その文体で淡々と書かれる体験談は確かに恐ろしさを感じます。

タニシさんがこの本を通して伝えたいことは「今、あなたは生きている」ってことだといいます。生きている以上、いつか必ず訪れる”死”。誰かが死を迎えたその現場で生活することでタニシさんは今生きているという”生”を強く意識するようになったとのこと。

お部屋の間取りを見るとき、自分がその部屋で生活する姿、”生きている姿”を想像していませんか?誰かが亡くなった”死の現場”である事故物件の間取りを紹介することで”生きている自分”を再認識してほしい。というのがタニシさんがこの本に込めた思いです。

 

事故物件ザクザク

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Image:Google Booksサンプルページより

タニシさんが住んだ事故物件は全部で5つ。そして紹介を受けた事故物件は無数にあります。この本の恐ろしいところは実際の間取りの他に部屋の写真があるところなんです。壁に浮かんだシミだったり、年末の深夜にインターホンに録画された謎の老人。自殺があった部屋のロフトにある柵が補強されたあとなど、普通にページをペラペラめくっていたらギョッとする事が何度かありました。

タニシさんのすごいところは事故物件に住むだけではなく、事故物件の特殊清掃にも挑戦しているところ。タニシさんが特殊清掃を行ったのは、浴槽で孤独死した男性の部屋。その凄惨なレポートは私の想像を超えていました。

作業を始めて数時間経った頃には、もう何の感情もなくなっていた。臭いとか怖いとか汚いとかの感情は初めの数分でどこかへ行ってしまう。それよりも作業を時間内に終わらせなければという責任感の方が強く芽生えた。

松原 タニシ. 事故物件怪談 恐い間取り (Japanese Edition) (Kindle の位置No.531-533). Kindle 版. 

事故物件に住むだけではなく、遺体の処理まで体験するとは、タニシさんの行動力に感服せざるを得ませんでした。なお、特殊清掃中の写真も本の中に出てきます。グロいシーンの写真ではないですが、床のシミやタニシさんの装備などから”死の現場”に立ち会っていると感じさせられます。

 

不動産業者の苦悩

知っている人もいるかと思いますが、誰かが亡くなったり、殺されたりした物件に入居する人には「この部屋では自殺や孤独死、殺人がありました」と告知する義務(告知義務)があります。ただし、それはなくなった人の次に入居する人だけに限ったお話。

つまり、亡くなった人の次の入居人には事故物件だと告知されますが、その次の人(亡くなったあ人から数えて2番目の人)には告知義務がないそうです。ですので事故物件ことを隠すためにとりあえず入居して速攻で転居するという事故物件ロンダリングという手法もあるそうです。

他にも事故物件をあえて目につくところに張り出し、その家賃の安さにつられたお客さんに「実はあの物件は事故物件でして…こっちの物件は大丈夫だのでいかがでしょうか?」という”釣り物件”ように使用されることもあるそうです。

たった1日に何件もの事故物件が新たに発生している日本で不動産業者や大家さんも事故物件の処理に必死なようです。

 

あと五年でなにかが起きる

このように沢山の事故物件に住んできたタニシさんですが、最近ついにタニシさんに異変が起きるようになったそうです。それは自分が写っている写真を見て気づいたそうです。もちろんその写真も出てきます。こちらはかなり衝撃的な写真になっています。

その写真に起きている異変について、その道の人に相談したところ、

「これは、『あと五年で死ぬ』という意味じゃないんです。『あと五年ですべてのものを失う』という意味なんです。死ぬより辛いですね」どちらにせよ嫌な答えであることに変わりはなかった。

松原 タニシ. 事故物件怪談 恐い間取り (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1779-1781). Kindle 版.

と言われてしまったようです。その5年後というのが2021年とのこと。タニシさんに何が起きるのか、霊障を信じていなくても、ちょっとだけ心配になりました。

 

この本を読んでみて

先にも書きましたが、タニシさんが住んだ事故物件は5つ。他にも不動産業に紹介してもらった物件が多数。他にも曰く付きのホテルの宿泊レポートなどがありました。ただしそれだけでこの本が成り立っているわけではありません。

残念ながら、後半の3分の1程度は心霊スポット巡りのレポートとなっています。ボリュームのある本にしたかったのか、自分の体験を余すところなく伝えたかったのかわかりませんが、後半の心霊スポット巡りのレポートはこの本の趣旨にそぐわないのでは?と思いました。だって心霊スポットで生活する人はいませんよね。

とはいえ、よくここまで事故物件を集めたものだと思います。中には誤って事故物件”じゃない”物件に引っ越してしまう失敗もしてしまいます。びっくりするほど何も起きなかったと後悔する話もあります。この辺を面白く書いてあるあたり、芸人さんだなぁって思います。ちなみにその事故物件じゃない部屋に住んでいるとき、電話で「あれ?引っ越した?」って当てられることがたくさんあったそうです。その理由は十分恐ろしいものでしたが。

芸人さんが初めて書いたとは思えない「怖い間取り」という本。1つの事故物件紹介は5分程度で読み終わるのでサクサク読み進めることができます。恐怖もそこまで強くないのでホラー小説は苦手って人でも大丈夫でしょう。ただ、この本を読んで私は松原タニシさん=怖い間取りの作家と認識してしまいました。芸人として認知されなくなる危険性を孕んだこの本。タニシさん本人からしたらこっちのほうが怖いのでは?